文化・芸術

2017.03.10

湯の街のモンマルトル


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昭和漫画家の巨人たち若き日の梁山泊だった豊島区のトキワ荘を取り壊すニュースが走った時、僕はまだ十代だった。そんなガキでも「なんというもったいないことを!!」とかなり激昂したことを覚えている。これを残しておけばゆくゆくは観光資源(というコトバは使わなかったと思うが)となるはず、それを目先のカネに絆(ほだ)されるとは大馬鹿モノ揃いだなというような話をクラスの友人とした記憶もある。

それから30余年経ち、彼の荘のレプリカを作って観光の呼び水にしようという計画があるようだが、それ見たことかと失笑した。そんなことなら最初から解体を許したりせずに、彼ら巨匠漫画家たちで散々儲けさせてもらった出版社が買い上げて守れば良かったのだ。覆水盆に返らずの極みといってしまえば簡単だが、先見の明とセンスのない者が決定権を持つ社会は本当に怖いと感じる。

また東京では「新・トキワ荘計画」なるものが始まっているらしい。しかし見たらマンションに若者を詰め込んでいて至極ガッカリした。まあそこに気持ちが向いて来たことはいいんだが、そうじゃないんだよなあ。あまりお膳立てし過ぎるのもヨロシくないし、自然発生的に集まらないといけないんだが、なによりワンルームマンションじゃないだろうに。中には木造戸建てもあるようだが、いずれも取って付けた感じ。住めりゃいいんでしょといった体。

大分県の別府の街にもトキワ荘を連想させる物件がある。《清島アパート》がそれだ。美術家としての成功・自立を目指す人々&目指さずとも活動を続ける人々が集う2階建ての木造住宅。ルックスから言えばこちらの方がよっぽど「新・トキワ荘」である。NPOが関わっているようなので純然と自然発生的に集まったというワケでもなさそうだが、かといって誰かが「こいつは後々話題になってカネに繋がる」なんていってあざとく集めたわけでもないので、募集などはかけたにせよ限りなく自然に聚合したように思える。

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なにより、戦後すぐに建った木造集合住宅という部分が素晴らしい。東京都心ではこんな物件をこんなふうに使わせてくれる大家は先ずいないだろう。その前にすでに物件自体がない。首都圏ではバブル期にこの手の住宅の大半が解体消滅、奇跡的に残ったものでも税制が変わって絶賛取り壊し中。あるとしたら撮影スタジオの中くらいだろう。改めて、何てことだ!と叫びたくなる。

おおむね「汚い・危ない・カネにならない」の「3ない」が古家の解体の理由だったりするが、木造古家が住む人に与える好効果を世間はまだよく判っていない。大借金して買うくせに家を単なる“シェル=殻”と軽んじる空気が世の中にはまだまだ強いのである。

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ナントカ遺産みたいにオーソライズされるとたちまち過剰と思えるほど大事にし出すのに、値札やキャプションが付かないものに対しては本当に冷めたい。こういった古家物件こそ町並み形成には重要なセットなのに、その辺の審美眼がウチの国民には絶望的に無い。これは「他人に言われるとそう思えなくもないが、自分では善し悪しを決められない」という国民癖のような性質が起因している。自分で決められないというのは、価値判断の幅が狭いということで、多様なモノを見て育っていないということの現れだと僕は考えている。自分で勝手に考えるな、こっちで決めたことを考えればいいのだという教育の潜在指針の賜物でもあるだろう。

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この呪縛は個々人が大人になってから自らで解くしかない。それにはいろいろな土地へ行き、さまざまな職業のいろいろな価値観を持つ多様な人々と出会って彼らの暮らしを垣間見せてもらうことだ。小学校から会社を辞めるまで続いた集団社会時代を脱け、古い住宅に住んで絵や本を書いたりしているうちに、確信を持った。

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そして街興しにありがちなアートジャック的カスタマイズがされていないところもこのアパートに好感が持てるポイントだ。美術家・芸術家が住んでいるから住居にまで何かを施す、という行為はジツに無粋なセンス。モンマルトルのアトリエ跡に壁画やインスタレーションがあるだろうか。名作を残した画家はそんなところで主張などはしない。彼らがそこで静かに作品を作っているという事実があれば良いのである。

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2016.03.06

活版印刷とイベントのお知らせ in 博多


昨年末、博多天神にある雑貨と書籍販売をするカフェから栞(しおり)のデザインのご依頼を受けた。聴けばワークショップ配布用グッズになるのだという。イベント当日がちょうど帰省と重なってしまったこともあって、顔を出せないばかりか余丁をも受け取り損ねていたのだが、開催終了3ヶ月後の先日別件の打ち合わせでやっと頂戴が叶った。

活版印刷で刷るということと開店一周年の記念品も兼ねるということから、楽し気なもの+細かなイラストにしてみたのだが、その上がりの素晴らしさにブッ飛んだ。自画自賛の話ではなく印刷が、である。(もちろんイラストもいいですよ)

ここ数年のゴシックやヨーロピアン・シャビー、オールドインダストリアルやブロカントといった戦前のオーセンティックスタイルのリバイバルに伴ってか、グラフィック業界隈では活版印刷の見直しが進み、これで刷られた名刺を頂戴することも増えた。出っ張った版を紙に押し付けてプリントするため文字に凹みができ、独特な風合いが得られる。おそらくこのノスタルジックな雰囲気が再評価に繋がっているのだろうが、イラストがなされたものを見る機会はあまりない。担当のMさんは大好評でスタッフ間でも取り合いになったんですよと言ってくれたが、この上がりを見る限りあながちお愛想でもないように思える。


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3階調の茶色い厚口上質紙ともすごく相性が良い。しっかりとディテイルを出すために職人さんが2回重ねて刷ってくれた賜物らしい。原寸より更に縮小されたイラストがくっきりと凹凸の陰影を見せつつ再現されていて激しく感心してしまい、打ち合わせを中断してしばらく見入ってしまった。

このブックカフェ『solid & liquid』で今月トークイベントを開催する。福岡に来て3回目、昨年のシカシマサイクルから1年ぶりのセッション。書籍雑貨の売り場面積に匹敵するとても潤沢な空間のカフェスペースなので、キャンセル待ちというようなご無礼はないかと。なんて忖度しといてガラガラだったらどうしよう。みなさんのご来場を心よりお待ちしております!


【FLAT HOUSE meeting】

■ 日時:3月19日(土)
   18:15~20:00(17:45開場)

■ 場所:天神イムズ4F『solid & liquid』
   福岡市中央区天神1−7−11

■ 参加費:1200円(1drink付)

■ 予約方法:お電話か直接店頭にて
      092-753-8135


http://blog.livedoor.jp/sltenjin/archives/1053238823.html


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2013.12.21

続・ミトコンドリアを増やせ

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昨夏「ミトコンドリアを増やせ」というタイトルの一文を書いたらば今年また友人からの依頼が増えた。依頼主からダイレクトに話を聴き、描き、手渡し、直に笑顔を拝めるという『対面販売』に、僕のような仕事はジツに向いているということが改めて判った。そうか、元々絵描きとはそういう職業だったはずだ。そんなことも再認識。今回もその例をいくつか。

昨年から友人Tくんらと共同で借り始めた土地に、プレハブの倉庫を建てた際に大変お世話になった知人の名刺。簡易建築とはいえ、ハイ建てなさいといわれた素人がホイ来たと一朝一夕にできるものでもない。ブロックを並べるだけの基礎であっても結構難しい。人工(にんく)だけでなくある程度知識を持った人が必要で、家具職人+大工である彼の手がなければあんなに短時間で建てることはできなかった。

そんなSさんは、腕がいい御仁なのに気の毒にも不幸が続き、当時生活保護を受けていたという。しかしTくんが仕事を取って来たり軽トラを無償で譲ったりして、見事昨年末生活保護解除が叶った。そのときの御礼と社会復帰祝いにと作ったもの。「どんなことができるか」を裏面にイラスト化、氏の人柄のような柔らかな色調で仕上げた。


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依頼主の渡邊ノリトくんとの出会いは、狭山のジョンソンカフェでのトークイベント。拙著FLAT HOUSE styleに掲載されている設計士の友人の広告を見てご連絡をくれた経緯。『丹誠塾』という名のちょっと変わった塾の先生ということで、話もジツに面白くちょくちょく会っているうちに大学の後輩にもあたるということも判明し、付き合いが深まった。自身もなかなか変わっていて、学生当時始めた当塾講師のアルバイトがあまりに楽しく、遂には大学を中退して先生になってしまったという笑い話のような経歴の持ち主なのである。


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丹誠塾は、企業兵隊養成所のような巷の学習塾とはまったく主旨を異にし、受験勉強にウエイトを置かない。不要になった紙を使って橋を作らせ強度を競わせたり、牛乳パックでパンを焼かせたり、課外授業で寄席に行ったり、ただただ火を興したりといった授業内容はニンゲン育成塾の趣(それでも東大生も輩出している)。

その彼が初代塾長の引退に伴い塾を継承する運びとなり、物件選びからヴィジュアルの一新までをお手伝いすることになった。塾の主旨がぱっと判るよう見合い写真的な目を惹くカードをまず作ろうと提案し、こんなカンジのものが出来上がった。そして「たんちゃん」なるキャラクターを自立させ、看板を手描き。一昨年描いた阿佐ヶ谷の友人店舗『Sugar Moon』からこれが2枚目だが、とても楽しんでできた。


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前回ボロボロカバーの拙著エピソードで登場してもらった福岡の内装職人のU氏、彼から受け取った名刺のフォントがあまりに名刺として相応しくなかったため、リニューアル。同業者である前出のSさんよりも仕事内容のアナウンスを控え、その分ストーリーを持たせた。彼の独特なキャラクターと人間味溢れる仕事っぷりがよく反映できたと自画自賛の一枚。

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最後は商用以外の仕事を。
僕は日頃似顔絵を頼まれても描かない。似顔絵は線だけ似せてもダメ。その人の中身をよく知らないといいモノに仕上がらない。なのでごく親しい友人のものしか請けない。描くときにも写真などは一切見ない。印象だけで描く。

春先に親友チャーリー森田さんの奥さんから「旦那の50回目の誕生日に絵を描いて欲しい」という依頼を請けた。彼とは20年来の友であり、先輩でもあるためもちろん快諾。居酒屋の店員よろしく「ハイ喜んで!」と承った次第。

お題はどんなテーマでも良いから家族全員を描いて欲しいというもの。30年間もドラマーとして音楽活動をして来た彼なので、そのあたりは絡めようとは思ったけれど太鼓に座る姿を描くのは今回はやめた。代わりに彼のごく親しい人にしか見せない普段の人間性が見えるものにした。バースデーの夜、梱包を解いた瞬間に居合わせたが、ここでもまた今まで一度も見たことのないような笑顔を真向かいで拝め、幸せお裾分けいただきました。


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来年もまたミトコンドリアの育成にひと役買いたいものです。


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2013.02.03

【FLAT HOUSE salon】のお知らせ

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すっかり新年のご挨拶の時季を逸してしまいましたが
ダイレクトにご挨拶できる機会を設けました。
来たる連休(2月10・11日)にイベントを開催します。

年末リリースしました『FLAT HOUSE LIFE vol.2』で使用した
イラスト原画の展示販売のほか、庭先では大型グリルでチキン
を焼き、ホットワインやコーヒーなどの温かい飲み物なども
ご用意する予定です。

場所は中央林間駅徒歩5分の米軍ハウスをコンバージョンした
『FLAT HOUSE cafe』。期間中は英国アンティーク&アメリカ
ンジャンクを扱うショップ『FLAT HOUSE mart』も営業します。

今や稀少となった神奈川県の米軍ハウスの内覧も兼ねられる
1粒で4度美味しいイベントですので、同店に一度行ってみた
かったという方はこの機会にゼヒどうぞ。


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《FLAT HOUSE cafe》
http://www.flat-house-cafe.com/


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2012.12.21

『FLAT HOUSE LIFE vol.2』発売のお知らせ

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本日21日『FLAT HOUSE LIFE 』の二冊目をリリースしました。


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3年前に上梓した、関東南西部〜東京都下に点在する古い平屋とそこに住む人々に魅力的な暮らしを紹介した一冊目には、実はいくつかの反省点がありました。そのひとつが掲載物件数。17棟(コラムを足すと18棟)というボリュームに本が追いつかなかったという点です。

出版社トップからは当初「30物件載せろ」という、僕から言わせれば内容を鑑みない極めて無謀な要求が突きつけられましたが、NOと返答。「それは自殺行為。そんなに詰め込んだら平屋の良さは伝わらない。巷によくある商業インテリア誌になってしまう」と強く抵抗し、何とかこの棟数にまで留めさせたという経緯があります。(まあ、経営者をはじめ役員クラスの人々は「中古平屋の本なんか売れるのか?」程度にしか思われていなかったようですが、強く共感してくれていた女性編集者の尽力に助けられた形です)


それでも最終的には17軒でもたっぷり2冊、いや3冊は作れるだろうボリュームが用意した材料にはあったのです。その中には掲載物件の数十年前の初々しい姿を収めた写真や老朽化した数多くの廃墟ハウスの写真もあれば、建具類を集めたコラム『パーツミュージアム』ももっともっとバラエティに富む予定でした。

最初の一軒を執筆し終えた直後、この調子ではとても1冊には納まらないと早々に判断できたため、二冊に分ける「分冊案」を上申しましたが、検討された気配もなくふたつ返事で却下。たらればの話になりますが、もしそれがキチンと検証し検討された上で答えが出されていたならば、上記の写真や断腸の思いで割愛したカットをすべて載せた上下巻が存在していたはずと信じています。

そしてもうひとつが版形。本当は25cm角くらいの正方形、ダメでもB5でと考えていましたが、まぁ無名イラストレーターの初著書ごときにそこまで冒険できるかといったところだったのでしょう、一般的なA5というサイズに落着。その上18棟というボリュームから否応なく写真が細かくなってしまった。その点も悔いる部分でした。

にも拘らず多くの方々がこの書をお買い求めくださったことは驚きに値し、感謝も絶えない中ひとまず安心はできましたが、その分用意した材料を余すことなくお見せできなかったという悔しさが日に日に大きくなっていきました。


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その轍から誕生したB5版形一冊平屋一軒の自費出版書『FLAT HOUSE style』。現在vol.3まで上梓し、おかげさまで創刊号とvol.2は完売するに至りました。しかしながら、その後取材を進めるうちに「載せたいけれど一冊には満たない」という物件に少なからず出会うようになったことも事実。それらを紹介するのにはやはりF.H.LIFEは適していると考えられるようになり(もちろんF.H.styleでも充分取り上げられるボリュームの家も載っていますが)完売した2刊もなかなか重版がかけられず、ご注文やお問い合わせにもお応えできない状態の中、安定供給できる初著はそれなりに役割があることを認識するに至りました。そんなことが2冊目を出す動機となった次第です。


また逆説的ですが、先の大震災やゲンパツ爆発による心身への影響も少なからず制作の後押しをしてくれたと思います。その辺りについてはまえがきでたっぷりと解説していますのでご一読ください。

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先述の通り、物件数を前作よりも減らし、その分それぞれの平屋の写真点数を増やしてじっくり紹介することに主眼を置きましたので、載せこぼしはほぼナシ。A5サイズで200ページ弱の本であればこのくらいの軒数が限界という僕の当初からの考えが反映され、ちょうど良いボリュームに仕上がっていると思います。


最近世間を騒がせている、およそ5000年を一周期とした「マヤ暦」によれば今日がちょうど周期の節目で文明がリセットされる日とのこと、何の因果かそんな記念すべき日に発刊された第二弾。人類がこの一両日中に終わってしまうか否かはまだ判りませんが、生まれたての『FLAT HOUSE LIFE vol.2』がみなさんの人生の節目のきっかけとなるテキストとなってくれれば幸甚です。

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2012.07.22

ミトコンドリアを増やせ

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人間の体内にあるミトコンドリアは地球上の
動植物ほぼすべての中に存在する細胞である。
(正確には細胞内小器官というらしい)
このミトコンドリアが生物の寿命や若さに大きく
関わっていることは、永年の研究で明らかになっている。
ミトコンドリアの量の減少が老化に比例するそうで、
逆に若い肉体にはたくさんのミトコンドリアが宿る。
若さを保つためにこれを増やす研究が昨今盛んだ。


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話は変わるが、僕の友人には個人商店主が結構いる。
特に20代の頃に数年滞在した岡山には多く、
かれこれ4半世紀経営を続けている友人も少なくない。
しかも彼らは若い時分に軽い遊びの感覚で始めて
現在に至っているからスゴい。

当然、苦労は山のようにして来ただろう。
またこのご時世、さらに状況は厳しさの一途というのも
推して計れる。その上街が企業チェーン店の主戦場と
化している昨今、それでもたたまずに頑張っている
彼らを僕はとても誇らしく思っている。

もちろん東京にも商店主を頑張る友人知人がいる。
首都圏の場合人口が多いとはいえ、
店賃が高い分この不況下ではむしろ大変。
杉並区阿佐ヶ谷にある友人夫妻が経営する雑貨店は
そんな中でも無理のない経営スタイルで
楽しむように続けているめずらしいケース。

そんな彼らから今春看板制作を頼まれた。
大きさは50cm角。日常A3より版形の大きい絵
を描くことはほとんどない。特に避けて来たわけでは
ないけれど、自分は細かい画が得意と勝手に
思い込んでいた。しかし描いてみるとこのサイズが
実はかなり向いていることに気付かされた。
何よりも描いていて楽しいのだ。↓

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■こちら「営業中」エディション。


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■こちらは「閉店」エディション。
 こういうものを打ち文字のプリントや
 アリモノを買って来て済ませるでなく
わざわざ手描きで作ろうというところに
 店主の心意気とセンスを感じる。細部にも
 サボらないところが良き商店経営には肝要なのです。

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そして同じ頃、大阪在住の読者からもご依頼をいただいた。
なんでも九州から真珠船を購入して改装を施し遊覧船に
コンヴァートさせ、府内の川を自らが舵を握ってクルーズ
するという「さすが大阪〜」な、大胆で面白い個人事業主が
クライアント。もう聞いただけでワクワクしてしまった。

webとパンフレット両方に画を使いたいとご用命をいただき
先ずはデザイナー氏が遥々大阪から我が家まで打ち合わせに、
そしてその数日後にはご本人がおいでくださった。
初見のクライアントと顔を突き合わせてお話しし、
相談しながら仕事を進めてゆくというプロセスは
この職を始めた当初のPCなど使わなかった時代には
まだ当たり前だった。その道順を今回は久々に踏んだ。


個人からご依頼いただく仕事は当然大企業より報酬は低い。
しかし制約は遥かに少なく、こちらの技量やアイデアを
最大限採用してくれる。イマジネーションと手をフル稼働
した分がムダなく反映され、ときに忘れていたサムシング
を思い出させてくれる。
今回の「わざわざ面会」も本当は省いてはいけないとても
大事なプロセス。メールのやりとりだけで完了する仕事も
結構ある昨今、忘れがちなパートだ。↓

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■その名も『御舟かもめ』。レンタルボートやクルーザーなどでなく「おふね」と冠するところに浪速的洒脱さを感じる。船体俯瞰図の解説も手描きにしてほしいとのご依頼。こういうオファーはとても嬉しいものです。キャラは船主で船長の中野さん。デザインはsato design/佐藤さんによる。


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■素の個人が遊覧船を運行できるなんて想像だにしなかった。
 特に首都圏では…。大阪だから簡単にできたということは
 ないだろうがダイナミックに動く個人は東京以外に居る
 気がしてならない。こんなふうに各々が「大それたこと」
 ではなく「小それたこと」をコツコツと実現してゆくこと
 で世の中はやがて大きく変わるはず。


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そして一番の良さは「楽しさ」を徹底追及させてくれること。
大企業のプロジェクトでこそ意欲を燃やせるという向きも
あろうが、彼らの何が何でも利益という大命題は
時にプロダクトを本来の役割から大きく逸脱させ
ツマラないものにする。ヘタをするとその退屈作業の
単なる片棒担ぎをさせられるだけとなってしまう。

その点、個人からの仕事はそんな事情とは無縁。
「楽しさ」の伝導こそがお客さんの認知に繋がるはずと
こちらのアイデアをそのまま受け入れてくれるケースがとても多い。
作り手の「初期衝動」に対する信頼度が遥かに高いのだ。

現在の街づくりにも商品開発にも一番足りないのは
まさにこの部分。作り手がまったく楽しんでいない。
消化仕事として半分仕方なしにやってるのが感じられてしまう。
「他と同じことをやっていてはダメだ」とは言いつつも
大概は「失敗しないように」「損失を出さないように」と
びくびくしながら過去の成功例の踏襲をしているように見える。
彼らから伝わって来る熱量は個人に比べ極端に少ない。

ここには、周囲の顔色をうかがいながら仕事を
し過ぎる日本企業の特質も反映されているだろう。
線を一本加えるごとにいちいち上役のお伺いを立てるような
まどろっこしいパターンも多く、作品のダイナミズムが
どんどんそがれてゆく思いをした経験は何度もある。

ギャランティを頂かなければこちらも食い上げてしまう
わけだから、多いに越したことはもちろんない。
が、この職を生業として16年がむしゃらに
描き続けて来た今、その多少を主眼に置いて仕事を
するべきではないとこれまで以上に強く感じるようになった。

この企業ルール主導の虚しき反復運動が
世の中の大半の仕事の中で今後も
当分続くのかと思うと暗い気持ちになる。
このままではやがて目に映るもの手にするものすべてが
目鼻のないつるんとした何ら味気のない表情になり、
CG書き割りですべてOKの社会になってしまうのでは
ないかと心配だ。


何もかもが利益優先のコスト偏重大企業に取り込まれて
周囲のすべてが画一化するような、そんな未来に
ならぬよういい加減みんなで踏ん張らないといけない。
売り上げが落ちたらすぐ撤退するようなサラリーマン店舗
が作る画一風景から、イキイキした個人経営の小さな店舗が
織りなす風景を街に取り戻そう。昔そうだったように。

良い街とはチェーン店が溢れる街でなく
そうした個人商店が健在な街だ。
彼らのような商店は、社会という体内の中で
元気を作り出すミトコンドリア
のような役割を担っているのだから。


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■『sugar moon』はアメリカ雑貨や古着を扱うお店。
  阿佐ヶ谷駅前から続く並木道/中杉通り沿いにある。
旦那のエノッキー氏はジャッキー&ザ・セドリックスの
ギタリスト。彼もしばしばレジに立ってます。
この値段でお店大丈夫なの!?という価格設定からも
 わかるようなユルき善き店内空気。 
 掘り出し物ザクザクです〜。

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2010.05.25

「FLAT」でない二週間


『FLAT HOUSE LIFE展』はおかげさまで昨日無事終了致しました。

間三日ほどは在廊できませんでしたが、その他の日は
通常業務をこなしてから夕方~夜に会場に向かうという日々。

しかも2週間の長丁場、さすがに後半はバテ気味でしたが
ご来場くださる皆さんに会える!という高揚感がモチベーションを
支えてくれていました。

さしもの私も明けの今日は「抜け殻」状態でしたが、
午後からはスタッフと我が家に積み上げられた荷物の
あと片づけを再開し、書籍・商品を納戸に見事収めました。
(って随分ドメスティックな報告だなぁ・・・)


思えば2月後半に開催が決定、通常仕事を山のように頂いており
そのうえ新雑誌のお披露目も開催当日に合わせたため
3~4月は季節の移ろいを楽しむこともままならず
スタッフも含め制作に次ぐ制作のドトウの春でした~。


しかしながら開催して良かったと思えるのはやはり
大勢の方々に直にお会いできた、と言うことに尽きますね。
これはキレイ事でも何でもなく、やはりナマで会い言葉を交わす
ということにバーチャルが勝る事などない、という事実 。

オンラインでの世界が社会の少なからずの部分を占めるように
なって来た昨今ですが、それが直に人々と接することに全て
取って代わってしまうようなことは未来永劫あり得ない・・・
それを実感できた貴重な二週間でした。


まだ実現の段階ではありませんが、 ご所望頂いている
地方にも近い将来お伺いしたいと考えています。
貴重なお時間を使ってご来場を頂きまして本当にありがとうございました。


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2010.05.22

あと2日です

早いもので11日目が過ぎようとしております。
たくさんのご来場、本当にありがとうございました。

http://www.parco-art.com/web/logos/flathouse1005/index.php

いよいよ会期最後の週末、明日は14時からトークライブを行います。
本に載せられなかった平屋や廃墟ハウスの写真、
直聴きならではのピンポイント空家情報などなどてんこ盛りでお話します。

前回来られなかった方々、お聴き逃しのなきよう!

【会場にはこんな商品が並んでいます~】


Badge

■FLAT HOUSERバッジは平屋ファンの証。これから住みたい、という方もどうぞ。


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■ポストカードはA6の大判サイズ。
 平屋を探しているお友達に出してあげてください。

Sticker


■新雑誌ロゴのステッカー。玄関先、愛車にぺたり。


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■カップ&ソーサはブルーグリーンとカーマインレッドの2色。


Cupaucer_red

Smallbag_1


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■カメラバッグはデジカメ、携帯電話、手帳が入れば
 もういっぱいのカワイイサイズ。 全10色の展開です。

Totebag_1


Totebag_2


■マップトートはゼンリンサイズのマップがすっぽり入る
 大きめバッグ。ナイロン製&ジップ付きなので雨でもOK。
 全11色の展開(紫はありません)ですが、バッグは
 それぞれの枚数が少ない上、廃版商品ですのでお早めにどうぞ~


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T_pink


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■FLAT HOUSERTシャツは両面プリント。
 カラーは他にライムグリーンやライトブルー、ネーブルオレンジなどがあります。 

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2010.04.12

『FLAT HOUSE LIFE展』開催まであと1ヶ月です

5月11日(火)から
渋谷パルコB1にある『ロゴスギャラリー』
『FLAT HOUSE LIFE展』が始まります。


ロゴスは他のギャラリーよりも比較的物販色が濃い会場だけれど
マス・プロダクト好きな僕にとってはむしろ好条件、最初の個展は
ここでやりたいなあ~と開業時から漠然と目標に置いて来たコロシアム。
(何てったって「本屋がやっている」というところがイイ!)

というわけで原画以外のオリジナル商品のラインナップもポストカードや
Tシャツといったいわゆる催事の「鉄板商品」だけでなく、カップ&ソーサーや
ナイロン製のバッグなどいろいろ揃えてみました。
デザインは先週完了、現在発注→製作中ですので
上がり次第ここでもご紹介します。お楽しみに~

会期は24日(月)までで、15日と23日にはトークライブ
なんぞを企画しておりますのでそちらにもどうぞ。


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およそ2週間開催しますが、おそらく2週間なんてあっという間に終わってしまうかと思われますので(友人の個展も大抵最終日ギリギリになって行くことの多いこと)ぜひお早目のお足運びをよろしくお願い致します~


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2009.08.16

僕にドアを見せてくれたレコード 【後編】


それから20年近くが経ち、30を過ぎてからまた再びそんなレコードに出会おうとは思わなかった。

10年以上続けて来た音楽活動にも見切りがついてしまい、ここまで仲良く付き合ってきたはずのRockに半ば辟易(へきえき)し、一体何をどうしたらよいのか解らずにただいたずらに日々過ごしていた時期があった。そんな時聴いたロニー・アンド・ザ・デイトナスは意外にも僕の大きく欠けたエモーションを補完してくれた想いがけない一枚だった。

彼らも先述の評価のされないミュージシャンのニオイがした。赤いパーカ(中途半端な丈の)をそろいで羽織った4人の白人の若者が腕組みしてクルマに寄りかかっているスリーブ。そのイナたい風貌からアメリカの60年代のグループだと言うことはすぐ見て取れたが、こりゃ当時も大して売れなかっただろうという想像に難くないビジュアル。またもや右端のメンバーが目を瞑っちゃってるところが偶然だが、こいつも僕的には激しくくすぐられるジャケットだった。

よく遊びに行っていた国分寺の50'S家具や古着を扱う店のオーナーが、ある日店内で聴かせてくれたのが初聴だったのだが、アルバム『G.T.O』sideBの1曲目『Sandy』を聴いた時にはトリハダが立った。

ah~ah~とコーラスで始まる導入部は切ないセブンス・コードを多用、こいつにイキナリどこかに連れて行かれてしまう。どことなくビーチボーイズのブライアン・ウィルソン似アングロサクソン系お坊ちゃま風容姿のリードボーカル/ジョン・バック・ウィルキン(スリーブ写真左端)はルックス通りのまったり&ぽあーんとしたボーカル&コーラスワークを聴かせたが、西海岸のそれよりノスタルジックで乾いた印象があり(彼らはナッシュビル出身)ボサノバ風味のきめ細かなギターがジツに印象的。美しくも切ない、それでいて売れ筋オルディーズとは全く出身が違う耳触りの佳曲は、店内の空気を一瞬にして変えた。

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音楽をナリワイにしようと一念発起、およそ10年勤めたカイシャを辞め、活動に注力したが結局挫折してしまったこの身にこのアルバムはやさしく深く浸透した(そう!今の音楽と決定的に違うのはカラダに染み入る速度と深度だ)。そして画描きとして生きて行こうとジンセイの交差点で大きくターンラウンドしようとする僕にヒントとバイタリティをくれた。今まで僕に強くサジェストしたレコードはドアを開け「さァ、さっさと外に出て何かを成して来い」と歌ったが、今回は静かに窓を開けて新鮮な空気を入れてくれたというカンジだった。


肉体労働と僅かな絵の仕事で日々を繰り返し、ワンルームマンションの一室でウツ気味スパイラルに陥っていた僕が、その後大きな森のある緑地公園脇に建つ古い平屋を探しあて、転居する決心をしたのはこのレコードの出会いと無縁ではなかった。精神的空気の入れ替えによってココロが幾分元気を取り戻し、緑の多い環境でアトリエを持とうという考えへ自然に誘ってくれたように思う。


「壁さえ抜かなければ何をしてもOK」という大らかな大家の直貸し物件に、契約の一ヶ月前から屋内に入り床を張り替えたりペンキを塗ったりセルフ・リノベーションを前倒しでさせてもらっていた時、まだひんやりとしたカラッポの家の中にはやはり『Sandy』が鳴っていた。「さあ奮い立て」とも「そのままでいろ」とも何とも謳わない、人々の興味からももすっかり外れた単なる古いラブソングが流れる空き家の中で、時にはこんな音楽に励まされることもあるんだなと黙々と刷毛を動かしたあの日からもう12年もの歳月が流れようとしている。


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