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September 2014

2014.09.23

この夏の厚い雲

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ここ十数年、夏が早く始まり遅く終わるような傾向が続いている。記憶では90年代中頃あたりまでは冷夏が続いていたように思うが、今では5月後半から10月前半までの5ヶ月間が夏になっている気がする。その分、過ごしやすい中間の季節が減ってしまった。冬は極寒、年々過酷な季節が増え何だかすごく損をしているような気分になるが、今年の夏は案外あっさりと引け、凌ぎ易い日が早くから来た印象。身体が自然発火しそうな中、二カ所への引っ越しを敢行した昨夏に比べると、今年は天国並みに感じる。

“その分”ということなのか、今年の夏は複数の友人から仕事に関する悪い知らせが続いた。20余年勤め上げた外資系 I T企業を解雇になった友人、30年近くも講師をしていた有名予備校の人員整理にあったという友人、仕事の激減からついにハローワークに行ったというフリーランスの友人や激務から倒れて入院してしまった大学職員の友人…。

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それでなくともネガティヴなニュース一辺倒な昨今、友人の不幸をブログに列記することに少なからず抵抗を覚えるが、これらは偶然重なった出来事ではなく、線でつなげば何かのかたちになっているように見える。明らかにひとかたまりになった「連携する現象」に映るのだ。そしてそれは決して他人事などではなく、自分を含めた大多数の同年代にいつ降り掛かってもおかしくない事態として捉えておく必要がある。


アベノミクスなどみんなハナから信じていなかった。どうせその恩恵を受ける“対象者”は限られるだろうというのが僕を含め大方が予想していたところだろう。フタを開けてみればそれは的中、ゼネコンなどの大手土建業社や大企業、グローバル企業のみがその対象者だった。

現政が盛んに唱えるトリクルダウン(富む者に潤いが浸透すれば必然的に他の市民へもその恩恵がこぼれるだろうという理論)も、1年が過ぎた今もってその効果はほとんど感じられない。第一そんな富む者任せの理論は、彼らのさじ加減ひとつでどうにでもされてしまうではないか。持つ者が自分たちの富をこぼさないよう企まれたら下で待ち受ける方はもう何もできない。

80年代アメリカのレーガン大統領によるレーガノミクスがまさにそれで、現在世界中でやりたい放題している超・富裕層を作ってしまったのはかの大失策の所為なのである。ネーミングもそれになぞらえているわけだから、結果の方もなぞらえますと言われている気がしてならない。個人的にも次々舞い込んだ友人からのニュースにその空論性を証明されてしまったというのに、未だ景気上昇中と喧伝するプロパガンダには不信感が募るのみである。


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岡山県倉敷市でオリジナルデニムショップを開いている友人がいる。拙著FLAT HOUSE styleにも広告を載せてくれている『LAUNCH A ROCKET』がその店。オーナーである Fさん自らがひとりでミシンをガチャガチャと操り1本1本作り上げるという完全“個人”制手工業。以前からアシスタントを用いないスタイルや、常にオルタナティブを旨とし大樹の陰に寄らぬ姿勢には深いシンパシーを抱いていた。

彼には会社員時代の岡山在任期によく遊んでもらった。実兄と同年なので本当はセンパイなのだが、年長者ぶるところもなく知り合った当時から気さくに対等な付き合いをしてくれた。喋ることすべてジョークというくらいサービス精神に溢れており、関東出身である僕に彼のキャラクターはかなり新鮮で強烈に映った。

当時はまだ既製服や雑貨を売る店だった店舗裏にはターンテーブルが2台あり、営業職をしていた当時仕事帰りに立ち寄ると、僕しかいないのにDJをやってくれたりした。当時から和製レアグルーヴやモンドミュージック通で、和田アキ子のデビューアルバムなんぞを廻しながらコレは日本のR&Bレコードの名盤なんよなァなどと解説してくれた彼は、当時古い歌謡曲などには眼もくれなかった僕にそれらの面白がり方を教えてくれた初めての人だったように思う。


そんな彼から数年前、商品の後ろポケットに取り付ける紙フラッシャーの制作依頼が来た。協議の結果金銭によるやり取りはやめ、「労働の等価交換」としてデニム2本で取引が成立。ここまで手仕事の権化でありながらマスプロダクトへの解釈もきちんとあるF氏は、C I やアイコンの大切さというものを個人商店主ながらに熟知していた。もう時効だから言うが、その昔英国の某有名ブランドのマークをただの無地ソックスやハンカチに丁寧に刺繍して僕に見せ、ニンマリしていたことがあった。その完成度の高さもさることながら、逞しさというかしたたかさというか世間をナメているというか、とにかくそっちに感心してしまった記憶がある。

今にして思えば、世界に溢れるコピー商品が今日ほど問題になっていなかったバブル景気前夜、すでに世の中がいかにイメージや虚栄心といった通念に振り回されているかをあざ笑うかのようなことをしていたように思う。その後、僕の作ったマークもいろいろなものに流用されているのを見て「サスガじゃわ Fさん」と笑ってしまった。(つづく)


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