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October 2012

2012.10.31

知らない誰かがしてくれるたくさんのこと


*


自分自身のことの大半は自分でしか解決できないものだ。
相談に来た友人にアドバイスしたところで、それを実行
するしないは本人次第。それ以上のことは他者にはどう
することもできないのである。

が一方で、いくら独りでやろうと思っても自力だけでは
解決できないことがあるのも確かだ。特にこんな世の中
では、つい大かたの事は自分一人で成して生きているの
だというような錯覚に陥りがちだが、本当は気がつかな
いところで知らない誰かが動いてくれていて、そのおか
げで日々の暮らしが成立している。


その「知らない誰かがしてくれたたくさんのこと」は
よく知らなくても暮らしてはいける。が、できるだけ
知った方がよいと昨年あたりから思うようになった。
人知れず黙々と続けて来てくれた行動には届く距離から
敬意を評したいし、そこに人手が足りないならば可能な
限り力を合流させたいとも思うからである。

かのボブ・マーレーが「俺から受け取ったそのバトンを
次はキミが誰かに渡せ」と歌ったように、してもらった
善行を次は自分が誰かにすべき、ということは誰しも疑
わないところだろう。


しかし「知らない誰かがしてくれたたくさんこと」の中
には、こちらが望まないマコトにありがたくないことも
含まれている。それは僕が眠っている時もご飯を食べて
いる時も映画を観ている時も仕事をしている時も、サボ
ることなく粛々と進めてくれていた。そしてある日突然
訪ねて来て、「これ、今日までの明細です。お支払いを
よろしく」と有無も言わせず請求書を手渡して来る。

それは一見みんなのためのように見えたのだが、実は
ごく少数の者たちに利益を集める類いのものだった。
「誰だキミは?こんなもの知らんぞ!」といっても
時すでに遅し。その誰かは

「今さらそれはないでしょう。
 今日まで恩恵を享受して来ましたよね?」

と恫喝して来る。

「何の事だ。享受なんて身に覚えはない。
 断固支払わないからな」

「残念ながらすでに法律で決まっていましてね。
 お支払い頂かないわけにはいかんのです」

「いつそんな法律が決まった?聞いてないぞ」

「もう随分前ですよ。あなたがお子さんの時分ですかね」

「それじゃ反対のしようがないじゃないか」

「反意を表す機会はその後もたくさんありました。
 何人かは抗議して来ましたし。あなたが知らないだけです」

そしてこう付け加えた。

「今日まで何も言って来なかったじゃないですか。この
社会で黙っていることは同意したのと同じなんですよ」
 

言葉を失う僕に、今後もお支払い願います〜と言い
残し半笑いで去って行った。「時の経過」はすでに
彼らの良い方に作用していた。


*


今は亡きジョー・ストラマーがライブの最中にオーディエンス
に向かって言った「タバコも酒もドラッグも止めて、その金を
貯めろ。そしてこんな所に来ないで投票に行け」という言葉を
思い出した。当時は詭弁にも聴こえたが、彼には確信があって
そう言っていたのだと、今になってみて思う。


「知らない誰かがしてくれるたくさんのこと」
それがどこの誰でいったいどんなことなのか、
知る努力が必要だ。

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