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September 2012

2012.09.30

今のクルマのデザインがひどいと思う

*

というのは良識ある自動車乗りであれば
ほぼ全員が抱いている共通見解であろう。


クルマに限ったことでもなさそうだが
なかんずくクルマがひどい。
コレに関しては現在の政治に近い感覚を覚える。
「民意がまったく反映されていない」という点で。

拙著『FLAT HOUSE style』のコラムでも
ちょっと触れたが、どのメーカーも
同じ目つきの
同じ顔した
同じようなボディの
同じような内装の
同じ経済性&お得を謳ったクルマばかりで
まことに没個性はなはだしい。
今やどれを選んでも一緒、会社のロゴが違うだけ。
自民党の総裁選か!とツッコミを入れたくなる。


最近頓に言われる「自動車が家電化した」という意見には諸
手を挙げて賛同するが、それはデザインにおいて強くある。
高密度実装化など技術力は素晴らしい日本車なのに、ことデ
ザインとなると急にダサくなり失速、大きくポイントを落と
す。今の日本車なら何に乗りたい?という友人との雑談でも
盛り上がったためしがない。

以前、ホンダの新型軽自動車開発のドキュメンタリーで、自
社の女性社員数人に試作を見せて感想を訊いたところ、ほぼ
全員にシート柄のダサさを指摘され、「考えもしなかった」
と苦笑するチーフエンジニアを見た。この程度なのである。

では以前はどうだったかと言えば、答えは「そんなことはな
かった」。ジウジアーロやピニンファリーナといった
海外デザイナーの蒼々たる顔ぶれが我が国の大衆車を手掛け
ていた時代が確かにあった。それが今や「家電」と言われる
テイタラク。いや、むしろ家電にだって失礼かもしれない。


*

環境問題や経済性から、化石燃料から離れる傾向のある
昨今のエネルギー事情、ハイブリッドカーやEVへの
パラダイムシフトがどんどん進んでいる。

しかし「エコ替え」という産業界にとって都合のいい
摺り替え言語には、コスト安という作り手側の理論も
一緒に乗っかっており、工業製品としての外観追求は
そのドサクサの中で完全に捨て去られてしまった。
それが今日の「没個性自動車時代」の主因であり、
新世代のクルマ離れにつながっている。

そんな中、ここ数年気になっているが「軽自動車」の
存在だ。クルマとしての評価は低く「オバちゃんか田
舎のヤンキーの乗りもの」とか「貧乏人のクルマ」な
どと揶揄されるているのは周知の事実。

が、冷静に精査してみれば税金・保険も安く駐車スペ
ースも取らず燃費も良しと3拍子揃った優秀な乗り物
であり、サイズも含めまさに土地の足りない都市向け
でもあって、そのレゾンデートルは決して「軽」では
ない。誕生時からすでにエコカーである軽自動車に時
代がやっと追いついた感さえある。

*


しかし残念ながら僕が言っているのは現在の軽ではなく、
過去の、いわゆる[エンスー車]といわれる35年以上を
経た旧車だ。昭和を遡るとそこにはジツに個性豊かな
顔ぶれの、まさに名車と呼ぶに相応しい車両が並んでい
る。先述したように軽自動車でも海外の有名デザイナー
に意匠を手掛けさせたり、懸命に美しいスタイリングを
模索した時代が過去にはあったのだ。


*


【マツダR360クーペ】
後に彼のロータリーエンジンを開発するエンジニアによる
マツダ軽車の傑作。凹凸のくっきりしたマスクがモダン。
ボンネットにある旧ロゴが今のものより断然カッコ良し。
1960年発売。

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【マツダ キャロル】
軽自動車初の4ドアセダン。ご存知の方も多かろう
コバルトブルー中間色ツートーンは僕も幼少の砌の
記憶にうっすらとある。1962年発売。

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なんと凝ったテールのデザイン!今なら「コストが
かかる」とか何とか言ってどのメーカーもこんなの
は作ろうとしないだろう。そんなことばかり言って
いるから若者がクルマに魅力を感じなくなるのです。

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【スバル サンバー】
働くクルマだってこんなにカワイかった。サンバー
とはインドの大鹿のことらしいが、独特のマスクが
とても愛らしいではないか。奥目で何とも人が好さ
そうだ。こういう顔つきのクルマが今はなさ過ぎる。
農家や個人商店主向けに開発投入されたが、今なら
車中泊のできるキャンパー仕様にしたら大いに売れ
そうな気がする。1961年発売。


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【スバル R2GL】
「てんとう虫」の愛称で知られる同社の360後継車。
このリアビューにもうやられてしまう。1969年発売。


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【ホンダ Z600クーペ】
日本人によるデザインだが欧米で人気を博す。丸みを帯び
ながらも直線をしっかり使ったフォルムには気品が漂う。
アウトビアンキアバルトのパクリとの声もあるがこちら
の方が兄貴。映画監督クエンティン・タランティーノ
も若き日に愛乗しており自身の作品にも登場させている。
1970年発売。

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【スズキ セルボSS20】
イタリアの工業デザイナー/ジョルジェット・ジウジアーロが
基本デザインを手掛けた一台。軽のイメージが全くない精悍な
顔つきには、欧州車の風格が漂う。軽の名車。1971年発売。

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:

【三菱 ミニカ70】
下敷きにしているのはMINIクラブマンエステート辺りなの
だろうか、この時代の軽自動車はMINIを目指していたもの
が多い。今は昔と逆転し欧州車のデザインがみんな日本車
化して来てしまった。それから考えればユメのような時代
だった。1970年発売。

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:


【スズキ ジムニー】
初期のスタイリングはまさにミニジープ。
軽自動車初の本格四輪駆動オフロード車で、日本の狭い林道を
駆れるように美しくダウンサイジングした日本のお家芸的な一台。
軽の利点をフルに活かした質実剛健さと可愛いルックスから、
たくさんのファンを掴む超ロングセラー車となった。
海外での評価も高く、特にこの初期モデルにはスズキに
バトンを手渡した開発メーカー『ホープ自動車』の製作者の
強い意気込みを感じる。最初の車両は1970年のデビュー。


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:

【ホンダ トゥデイ】

FIAT社LITOMOのデザインからインスパイアされたそのエク
ステリアは、ボンネットまで食い込んだヘッドライト処理か
ら見てももうLITOMOの異母兄弟。すでに“パクリ”の領域
ともいえるかもだが、これを気に入って欧州に持ち帰った
フランスのエンジニアが今度はルノーからクリソツの『Twi
-ngo』を発売させてしまう。その経緯を好意的に見れば、
伊→日→仏という順序でデザインのリレーが行われたとも
取れる。そういう意味でいえばおかしな表現だが「純粋混
血児」といえそうである。
この後次代モデルで一旦角目になるものの、3台目には再
び丸眼に戻された。当時使われ始めた「オシャレ」という
キーワードそのままの路線で売り出され、これまた当時も
てはやされ出したトレンディ女優がCMに起用された。
1985年発売。

Today


:


【ホンダ シティ】
軽自動車ではないので番外編として。
イタリアの工業デザイン企業ピニンファリーナがカブリオ
レをデザインしたことで知られるコンパクトカー。CMに
もUKのSKAバンドMADNESSを起用するなど、明らかに新世
代をターゲットにしたコンセプチャルな一台。やはりこの
車も当時欧州のメーカーがこぞって包囲網を敷いたほど売
れに売れていたVWゴルフを強く意識したのだろう。
この頃あたりからまでいわゆる「丸眼」のマスクから「角
眼」への移行が始まり、「丸眼」に少し懐古的ニュアンス
が生まれ出したため登用したとも私は想像する。この後に
出るトゥデイもこの車の成功から生まれたように見える。
来年復刻されるらしいが、ゼヒこのフォルムのまま発売し
て欲しいもの。1981年発売。


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こんなふうに70年代以前には軽自動車にも
相当な力が入っていたのである。
今みたいにただただ経済的というのとはワケが違う。


*

最近までの状況を見れば、普通車よりも「まだ」
面白いデザインが出て来ていたように見える
軽自動車が、いち早く初期のデザインとプライドを
奪回し、このくらいカッコ良く戻ろうとしたならば
普通車から乗り換える壮年層だって少なくないだろう。
興味のない若者も振り向くのではないかと思う。


そうするとすぐツーシーターの軽スポーツカーを
作ろうとするが、それはNGと釘を刺しておこう。
クルマのカッコ良さ=スピード&スリリングという
感性は昔日の若者のものであり、それを持ちあわせ
ないのが現世代であって、その彼らがクルマ離れを
起しているということをそろそろ認識して頂きたい。

潜在需要があるのはあくまで移動と運搬を目的とした
4人乗り以上でハッチバック付の5枚ドア。それでいて
美しいフォルムの軽自動車でなくてはいけない。
こんなにスペース広く取りました的な箱型タイプも
今や供給過多なので卒業し、傾けて来たエネルギー
をデザインの方へシフトさせるべし。

VW初期型ゴルフや旧ミニ、フィアットパンダやルノー5、
キャトル、シトロエンBX、プジョー205などを選んでいた
人々をターゲットにと言えば判りやすかろう。
(この手の人たちは僕の周囲に相当数いる)

それにしても昔できたことがなぜ今できないのかフシギで
ならない。もし本当にできないなら無理に新車を出すこと
はない。復刻だって十分良いのだ。ただし、機関以外は
一分もオリジナルと違わずに作る「完全復刻」が大前提。
おかしな新解釈を挟むと上記の人々には絶対に売れない。
「やっぱりダメだったじゃないか」という失敗例となって
しまい二度と試みないという最悪のパターンになるので
中途半端な復刻はゼッタイにしないことだ。


*

かつて英国のバラエティ番組『モンティ・パイソン』の
翻訳やプロデューサー、作家としても活躍した
故・景山民夫氏も相当な軽自動車愛好家だったし
友人の知人で、バウンサーを生業とする米国人も
格闘家のような体つきで軽を愛乗しているらしい。

このカテゴリーは日本産業界が気がついていない
大きな商機の眠る「シェールガス層」のような分野。
早期に普通車の階級下的な屈辱的スタンスを捨て、
その独自性を活かした思い切りを再び発揮し世界の
自動車ファンを驚かせるようなルネサンスを見せて欲しい。


小型化を苦手とする米国の自動車産業界が
我が国の「軽」枠を取っ払えと政治家を使って
圧力をかけて来ているそうだがとんでもない話だ。
断固阻止せねばなりません。

*


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