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2012.07.22

ミトコンドリアを増やせ

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人間の体内にあるミトコンドリアは地球上の
動植物ほぼすべての中に存在する細胞である。
(正確には細胞内小器官というらしい)
このミトコンドリアが生物の寿命や若さに大きく
関わっていることは、永年の研究で明らかになっている。
ミトコンドリアの量の減少が老化に比例するそうで、
逆に若い肉体にはたくさんのミトコンドリアが宿る。
若さを保つためにこれを増やす研究が昨今盛んだ。


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話は変わるが、僕の友人には個人商店主が結構いる。
特に20代の頃に数年滞在した岡山には多く、
かれこれ4半世紀経営を続けている友人も少なくない。
しかも彼らは若い時分に軽い遊びの感覚で始めて
現在に至っているからスゴい。

当然、苦労は山のようにして来ただろう。
またこのご時世、さらに状況は厳しさの一途というのも
推して計れる。その上街が企業チェーン店の主戦場と
化している昨今、それでもたたまずに頑張っている
彼らを僕はとても誇らしく思っている。

もちろん東京にも商店主を頑張る友人知人がいる。
首都圏の場合人口が多いとはいえ、
店賃が高い分この不況下ではむしろ大変。
杉並区阿佐ヶ谷にある友人夫妻が経営する雑貨店は
そんな中でも無理のない経営スタイルで
楽しむように続けているめずらしいケース。

そんな彼らから今春看板制作を頼まれた。
大きさは50cm角。日常A3より版形の大きい絵
を描くことはほとんどない。特に避けて来たわけでは
ないけれど、自分は細かい画が得意と勝手に
思い込んでいた。しかし描いてみるとこのサイズが
実はかなり向いていることに気付かされた。
何よりも描いていて楽しいのだ。↓

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Dsc05683
■こちら「営業中」エディション。


Dsc05686
■こちらは「閉店」エディション。
 こういうものを打ち文字のプリントや
 アリモノを買って来て済ませるでなく
わざわざ手描きで作ろうというところに
 店主の心意気とセンスを感じる。細部にも
 サボらないところが良き商店経営には肝要なのです。

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そして同じ頃、大阪在住の読者からもご依頼をいただいた。
なんでも九州から真珠船を購入して改装を施し遊覧船に
コンヴァートさせ、府内の川を自らが舵を握ってクルーズ
するという「さすが大阪〜」な、大胆で面白い個人事業主が
クライアント。もう聞いただけでワクワクしてしまった。

webとパンフレット両方に画を使いたいとご用命をいただき
先ずはデザイナー氏が遥々大阪から我が家まで打ち合わせに、
そしてその数日後にはご本人がおいでくださった。
初見のクライアントと顔を突き合わせてお話しし、
相談しながら仕事を進めてゆくというプロセスは
この職を始めた当初のPCなど使わなかった時代には
まだ当たり前だった。その道順を今回は久々に踏んだ。


個人からご依頼いただく仕事は当然大企業より報酬は低い。
しかし制約は遥かに少なく、こちらの技量やアイデアを
最大限採用してくれる。イマジネーションと手をフル稼働
した分がムダなく反映され、ときに忘れていたサムシング
を思い出させてくれる。
今回の「わざわざ面会」も本当は省いてはいけないとても
大事なプロセス。メールのやりとりだけで完了する仕事も
結構ある昨今、忘れがちなパートだ。↓

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■その名も『御舟かもめ』。レンタルボートやクルーザーなどでなく「おふね」と冠するところに浪速的洒脱さを感じる。船体俯瞰図の解説も手描きにしてほしいとのご依頼。こういうオファーはとても嬉しいものです。キャラは船主で船長の中野さん。デザインはsato design/佐藤さんによる。


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■素の個人が遊覧船を運行できるなんて想像だにしなかった。
 特に首都圏では…。大阪だから簡単にできたということは
 ないだろうがダイナミックに動く個人は東京以外に居る
 気がしてならない。こんなふうに各々が「大それたこと」
 ではなく「小それたこと」をコツコツと実現してゆくこと
 で世の中はやがて大きく変わるはず。


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そして一番の良さは「楽しさ」を徹底追及させてくれること。
大企業のプロジェクトでこそ意欲を燃やせるという向きも
あろうが、彼らの何が何でも利益という大命題は
時にプロダクトを本来の役割から大きく逸脱させ
ツマラないものにする。ヘタをするとその退屈作業の
単なる片棒担ぎをさせられるだけとなってしまう。

その点、個人からの仕事はそんな事情とは無縁。
「楽しさ」の伝導こそがお客さんの認知に繋がるはずと
こちらのアイデアをそのまま受け入れてくれるケースがとても多い。
作り手の「初期衝動」に対する信頼度が遥かに高いのだ。

現在の街づくりにも商品開発にも一番足りないのは
まさにこの部分。作り手がまったく楽しんでいない。
消化仕事として半分仕方なしにやってるのが感じられてしまう。
「他と同じことをやっていてはダメだ」とは言いつつも
大概は「失敗しないように」「損失を出さないように」と
びくびくしながら過去の成功例の踏襲をしているように見える。
彼らから伝わって来る熱量は個人に比べ極端に少ない。

ここには、周囲の顔色をうかがいながら仕事を
し過ぎる日本企業の特質も反映されているだろう。
線を一本加えるごとにいちいち上役のお伺いを立てるような
まどろっこしいパターンも多く、作品のダイナミズムが
どんどんそがれてゆく思いをした経験は何度もある。

ギャランティを頂かなければこちらも食い上げてしまう
わけだから、多いに越したことはもちろんない。
が、この職を生業として16年がむしゃらに
描き続けて来た今、その多少を主眼に置いて仕事を
するべきではないとこれまで以上に強く感じるようになった。

この企業ルール主導の虚しき反復運動が
世の中の大半の仕事の中で今後も
当分続くのかと思うと暗い気持ちになる。
このままではやがて目に映るもの手にするものすべてが
目鼻のないつるんとした何ら味気のない表情になり、
CG書き割りですべてOKの社会になってしまうのでは
ないかと心配だ。


何もかもが利益優先のコスト偏重大企業に取り込まれて
周囲のすべてが画一化するような、そんな未来に
ならぬよういい加減みんなで踏ん張らないといけない。
売り上げが落ちたらすぐ撤退するようなサラリーマン店舗
が作る画一風景から、イキイキした個人経営の小さな店舗が
織りなす風景を街に取り戻そう。昔そうだったように。

良い街とはチェーン店が溢れる街でなく
そうした個人商店が健在な街だ。
彼らのような商店は、社会という体内の中で
元気を作り出すミトコンドリア
のような役割を担っているのだから。


Dsc05697

■『sugar moon』はアメリカ雑貨や古着を扱うお店。
  阿佐ヶ谷駅前から続く並木道/中杉通り沿いにある。
旦那のエノッキー氏はジャッキー&ザ・セドリックスの
ギタリスト。彼もしばしばレジに立ってます。
この値段でお店大丈夫なの!?という価格設定からも
 わかるようなユルき善き店内空気。 
 掘り出し物ザクザクです〜。

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