疾走!キュートなバブルカー
弟のような存在の男が居る。M崎Y介。
金髪リ-ゼントでイタリア製のビザールギターを
(時に天井に逆さにぶら下がりながら!)かき鳴らし、
世界に1台しかないトライアンフ・ボンネヴィルにまたがるRockersだ。
今年三十路を迎えるが未だ両親と暮らしている。
「どんなにエラそうな事言っててもママの作るゴハンを
毎日食ってるような男は一人前として認めないからな!」
と叱咤し続け早や数年、昨年やっと「独立します~」と
か細い声で宣言。
その後PCで不動産物件を物色しては内見を付き合ってやったりしていた。
にも拘わらずこの道楽&放蕩ムスコ、その資金であっさり
クルマなんざ購入しやがった。しかも2台目。
僕に伝わると怒られると思ったらしく、ダイレクト報告はナシ。
友人を介して聞かされた。金200万円ナリ。おかげで独立は無期延期。
「あのバッカタレが!!」電話口で叱ろうとしたした瞬間
「イセッタ買ったんですよ」と一言、機先を制された。
「え?・・・・なんつった?」
「イセッタです」
「エエーーーーッ!?イ、イセッタ~~!?ってあのイセッタ!?」
「ハイ」
「す、 すぐ乗って来い!どんなカンジか見てやるから!」
怒ってみたところで迫力皆無。向こうも「へへへ~了解~」と見透かしたような半笑いで電話を切った。くゥ~~~そう来たかぁ~痛いとこ突いて来やがったー。2時間ほどすると表から明らかに聞き覚えのないエンジン音。「あ!来たかしらん♪」なーんかガールフレンドを待ってたようなソワソワ加減で玄関を出てしまったワタシ。
居ッたァーーーーーーッ!
そう、ご存知の方も多いと思うが「イセッタ」は1950年代半ばに造られた2人載り(+子供一人までならOK)の排気量600ccの小さな自動車なのです。
造ったのはイタリアの冷蔵庫メーカー「イソ社」。その所為かドアはフリーザーを連想させる前開き。もっとひねりなさい~と言いたいところだが冷蔵庫屋が車を造ろうってんだからイタリア人の起業家根性にも恐れ入る。しかもこのフロントハッチこそがイセッタのトレードマークになり、今もたくさんのファンを持つ由縁になったわけだから大成功のデザインと言える。
M崎が購入したのは50年代後半に入ってBMWに吸収された(正確にはノックダウン)後造られたハインケルキャビン後継モデルだが、どちらにせよタマ数が極端に少ないエンスー車中のエンスー車。
メッサーシュミットと並ぶバブルカーの異名を持つ名車で、セレブな金持ち旧車ファンも死ぬまでに一度は所有したいといわれる1台である。それもそのはず、とにかくキュート!インテリアもすんごくカワイイ♡~もう全体的に♡になってしまうのだ。
「きゃああああー♪」と静かに嬌声を上げながら慢心の笑みで乗車。レッツラゴー!ポロロンポロロン~とエンジン音までがカワイイ&心地よい。そうそう、イタリアンスクーターに乗っている方ならば聞き覚えのあるサウンドです。走ると言うより駆けるカンジ。時々徒歩(笑)。調布飛行場をぐるり、20号に抜け味の素スタジアムからアメリカンスクール方面へ。
とにかくみんな見る見る。走って追いかけてくる女子高生さえいる。お巡りさんも二度見。しかもサザエさんじゃないけどみんな笑ってる。嘲笑ではなく憧憬の笑みなのだ。少年がロボットを見るような、少女が王子様を見るような眼を向けて来る。「なにアレッ!?」「カワイイ~~!!」クチビルからそう読める。口半開きの顔で追うコンビニ前でドリンクを手にした高校球児たち。声を失っている。
老若男女振り返る振り返る。とにかく手を振られてしまう。手を振り返してしまう。歩行者も乗員も共に子供に戻ってしまう。お互いテレはない。高級車に乗っている様なおかしな優越感もない。そこにはカワイイ造形物を囲むシアワセの共有だけがやり取りされている。
降車するとM崎を叱る気持ちなぞすっかり
どこかに行ってしまっていた・・・。
今回は完敗だった。
ああ、カワイイものは世界を制すのだ。
この持論にますます確信を持ったのでした。
(でもそろそろ独立だぞー!)
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